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東京地方裁判所 平成6年(ワ)14675号 判決 1997年1月20日

原告

宗教法人幸福の科学

右代表者代表役員

大川隆法

右訴訟代理人弁護士

佐藤悠人

安田大信

松井妙子

被告

株式会社講談社

右代表者代表取締役

野間佐和子

被告

森岩弘

右両名訴訟代理人弁護士

河上和雄

山崎恵

的場徹

成田茂

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  原告の請求

一  被告らは原告に対し、別紙(一)記載の謝罪広告を、表題の「謝罪広告」とある部分並びに末尾の「株式会社講談社」・「代表取締役野間佐和子」・「週刊現代元編集人森岩弘」及び「宗教法人幸福の科学主宰大川隆法殿」とある部分はそれぞれ明朝体一号活字とし、本文は明朝体五号活字として、「週刊現代」記事中に、縦二四センチメートル・横一八センチメートルの大きさで掲載せよ。

二  被告らは各自原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成六年七月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

(一)  原告は、「地上に降りたる仏陀(釈迦大如来)の説かれる教え、即ち、正しき心の探究、人生の目的と使命の認識、多次元宇宙観の獲得、真実なる歴史観の認識という教えに絶対的に帰依し、他の高級諸神霊、大宇宙神霊への尊崇の気持ちを持ち、恒久ユートピアを建設することを目的」とする宗教法人であり、原告代表役員である大川隆法を信仰の対象としている。

(二)  被告株式会社講談社(以下「被告会社」という。)は、雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社で、週刊誌「週刊現代」を発行しており、被告森岩弘は、後記2の本件記事発行当時における「週刊現代」の編集人である。

2(本件記事の掲載)

被告会社は、平成三年七月二二日発行の「週刊現代」平成三年八月三日号(以下「本件雑誌」という。)の四六ないし四九頁において、「問題摘出レポート/異常成長大川隆法「幸福の科学」でやっぱり噴き出たゴタゴタ7・15東京ドーム5万人集会は総費用60億円」というタイトルの下に、原告に関する別紙(二)記載のとおりの記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。

3(名誉・信用毀損の理由)

しかしながら本件記事のうち次に掲げる各記事部分は、いずれも原告への裏付け取材を怠った悪質な捏造・誹謗中傷をその内容とするものであり、とりわけ同記事は、原告の公式行事である「御生誕祭」がカネ集めの名目に過ぎず原告は金権主義の団体であるとのイメージを一般読者に与えるものであって、原告の名誉と信用を著しく毀損するものである。

(一)  本件第一記事部分

(1) 本件雑誌四八頁二段目及び三段目で別紙(二)の①で囲まれた部分には、左記のとおりの記事部分(以下「本件第一記事部分」という。)がある。

都内のある支部の支部長は、今回のイベントの前にこんなゲキを会員たちに飛ばしたという。

「今度の御生誕祭には総費用が60億円かかります。それを各支部で負担することになりました。この支部では1億7000万円集めることに決定しました」

このため、イベント直前に開かれた「幸福の科学」の支部集会は「学習会」というより「集金報告会」だったという。

(2) しかし、平成三年七月一五日に行われた原告の「御生誕祭」の費用が六〇億円もかかった事実はなく、都内のある支部の支部長が右の記事のような檄を会員たちに飛ばしたことも全くない。

(二)  本件第二記事部分

(1) 本件雑誌四八頁四段目及び同頁五段目から四九頁一段目で別紙(二)の②で囲まれた部分には、左記のとおりの記事部分(以下「本件第二記事部分」という。)がある。

「幸福の科学」は、教祖の「御生誕祭」開催に際し、会員にチケット販売と寄付のノルマを課していたのだ。

(中略)

ある上級会員が打ち明ける。

「総合本部の財務局から電話があり、『上級会員は一口10万円と決まりましたのでよろしく』というんですね。あまりに一方的で高飛車ないい方なので、『寄付というのは気持ちでするものでしょう。なぜ金額を決めるのですか』というと、『いや、もう決まったことなので、とにかく用紙を送ります』と一方的に電話を切ろうとするんです。私、『それじゃ、ノルマじゃないですか。私はお断りします』と怒鳴ってやりました」

その他、250枚のチケットを押し付けられた中級会員もいる。

「いままでは支部から割りあてられる分をさばいていればよかったんですが、今回はそれ以外にも婦人部やら地区やら、いろんな分を合わせて250枚だというんです。私は『冗談じゃないわよ。私は30枚しかやらないわよ』といって断りました」

(2) しかし、原告は会員に対しチケット販売と寄付のノルマを課したことはなく、会員の打ち明け話も全く捏造である(そもそも原告の会員に上級会員とか中級会員という呼称もない)。

(三)  本件第三記事部分

(1) 本件雑誌四九頁で別紙(二)の③で囲まれた部分には、左記のとおりの記事部分(以下「本件第三記事部分」という。)がある。

また若いサラリーマンの母親から、こんな苦情が支部にきたという。

「ドームの費用の足しにするためにウチの息子はアパートを引き払いました。自宅から通えば家賃分は寄付できる、と幹部の人にいわれたというんです」

(2) しかし、原告の幹部が家賃分の献金を強要したことは全くなく、右記事部分は全くの捏造である。

(四)  本件第四記事部分

(1) 本件雑誌四九頁一段目及び二段目で別紙(二)の④で囲まれた部分には、左記のとおりの記事部分(以下「本件第四記事部分」という。)がある。

元公明党都議の藤原行正氏にいわせれば、大川氏の「幸福の科学」のやり方は創価学会の引き写しに過ぎないという。

(中略)

東京ドームの『御生誕祭』とやらも、カネ集めの名目ですよ」

(2) しかし、右記事は捏造の事実を前提にして、週刊現代編集部が訴外藤原行正に何の根拠もない決めつけをさせたものに過ぎない。

4(被告らの責任)

(一)  被告森岩弘は、本件雑誌の発行当時「週刊現代」の編集人として、他人の名誉等を毀損する記事を「週刊現代」に掲載することを防止すべき義務があるのにこれを怠り、前記のように原告の名誉等を毀損する本件記事を本件雑誌に掲載した。

(二)  被告会社は、被告森岩弘の使用者であり、被告森岩弘は被告会社の業務執行として右(一)の編集等を行った。

5(原告の損害)

(一)  本件各記事部分が掲載された本件雑誌が頒布されたことにより宗教団体の中核部分ともいえる原告の「尊さ」が傷つけられ、原告の社会的評価が低下した。また、原告の会員らは、本件記事で自らの帰依する原告と大川隆法が誹謗中傷されたことにより、その信仰心を傷つけられその信仰生活に打撃を受けたが、本件記事が会員個人を対象としたものでない以上、一般的に会員個々人がその被害を回復する方法は存しないから、これら原告を構成する会員の被った被害についても原告の被った損害に関する事情として考慮されるべきである。

(二)  原告の右損害は到底金銭に換算することができないほど甚大であるが、あえて評価するならば金二〇〇〇万円を下らない。また、右損害を回復するには金銭によるのみでは足りず、本件記事の掲載誌である「週刊現代」誌上における謝罪広告を用いて名誉・信用の回復が図られることが必須である。

6(まとめ)

よって、原告は被告ら各自に対し、右不法行為による損害賠償金二〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成六年七月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、原告の名誉回復のための処分として、別紙(一)記載の謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実のうち、原告が宗教法人であること、大川隆法がその代表役員であることは認め、その余は知らない。

2  同1(二)の事実は認める。

3  同2の事実は認める。

4  同3(一)(二)(三)(四)の各(1)の事実は認めるが、各(2)の事実は否認する。

本件各記事部分は総じて「『御生誕祭』に際して、会員に対しチケット販売と寄付のノルマが課されるなど原告教団の内部で組織的集金活動がなされていた事実」を公衆に伝達するものである(但し、本件第四記事部分は事実の伝達ではなく、訴外藤原行正の意見言明である。)が、右事実又は意見言明は原告の否定的な評価を形成するものではないから、何ら原告の社会的評価を低下させるものではない。

5  同4(一)の事実のうち、被告森岩弘が「週刊現代」の編集人であったことは認めるが、その余は否認する。

6  同4(二)の事実は認める。

7  同5(一)・(二)の各事実は否認する。

三  抗弁

仮に本件各記事部分により原告の社会的評価がわずかなりとも下落したとしても、これらは、次に述べるように、いずれも公共の利害に関する事項について専ら公益を図る目的を以て掲載されたものであり、事実言明部分たる本件第一ないし第三記事部分はいずれも真実であるか被告らにおいて真実であると信じるに足りる相当の理由があったものであり、また意見言明部分たる本件第四記事部分はいずれも正当かつ合理的な「論評」であるから、本件各記事の掲載行為は違法性を欠くものである。

①  公共の利害に関する事実

原告は、本件雑誌の発行当時、会員数の激増と広告代理店・マスコミを利用した大規模な宣伝活動によって社会的注目を集めていた大規模な宗教法人であり、本件記事は、このように社会の注目を集め社会的に影響力を有する巨大団体たる原告の運営の実情等について記述したものであるから、記事の対象事項は公共の利害に関する事項である。

②  公益目的の存在

原告のような新興の宗教は、既存の宗教団体や他の新興宗教との競争の必要があることから、その布教活動は大仰にして戦闘的・侵攻的かつ執拗になることが通例であるところ、本件記事は、本件雑誌の発行当時、会員数を激増させ行動力・組織力を高めていた原告について、その監視ないし批判という社会的要請に応えて掲載されたものであり、当然に強い公益目的が認められるものである。

③  本件第一ないし第三記事部分についての真実性及び相当性

本件第一ないし第三記事部分は、被告会社の編集部に所属する訴外秋元直樹(以下「訴外秋元」という。)が、原告の出版物を精査したほか、同編集部に所属する記者らに対し原告の会員信者や元信者・教団を離れた元幹部・教団ウォッチャーと接触して情報収集に努めることを指示しその結果として入手した情報に基づき掲載されたものであるから、その摘示事実は真実である。仮に真実でない部分があったとしても、以上の取材経緯に鑑み真実であると信じるについて相当の理由があったものである。

④  本件第四記事部分についての真実性及び論評の正当性

本件第四記事部分は元都議会議員であった訴外藤原の意見言明部分であるが、同訴外人が、その見解を読者らによりよく理解してもらうために、原告と同様に拡大指向を有し既に巨大化した宗教団体としてポピュラーな創価学会と比較対照して原告を論評することは、社会的に相当性を有するものである。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因1(一)の事実(原告の地位)のうち、原告が宗教法人であること、大川隆法がその代表役員であることは当事者間に争いがなく、その余(信仰の対象)については、甲第七号証、証人小林健祐の証言及び弁論の全趣旨により、認めることができる。

2  同1(二)(被告らの地位)・2(本件記事の掲載)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件記事掲載に至る経緯

甲第一ないし第二五号証、第二六号証の一ないし四、第二七ないし第二九号証、乙第一ないし第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇ないし第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、二、第二四ないし第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五ないし第三八号証、証人小林健祐、同秋元直樹の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、大川隆法を中心とする任意団体として昭和六一年に発足し平成三年三月七日宗教法人法に基づき設立登記がなされた宗教法人であるが、救済よりも向上心や自己啓発を主唱する教義、原告代表者大川隆法が東京大学出身で大手商社である株式会社トーメンのサラリーマンであったこと、マスコミや広告代理店等を利用した大々的な宣伝活動、成立からわずか四年半くらいの間に公称数十万人もの会員を集めるほどに急成長を遂げてきたこと等の事情から、本件雑誌の発行された平成三年当時には、従来の宗教とは異なる宗教団体として、世間の注目を集めるに至っていた。

2  被告会社の編集部は、このような従来にないタイプの宗教団体である原告及び原告代表者大川隆法を報道対象として注目し、平成三年の四・五月ころからその取材を開始した。右取材活動は、編集部員の訴外秋元を中心として、原告の多数に上る出版物を精査したり、同編集部所属の記者らが原告の会員信者や元信者・元幹部・教団ウォッチャーらとの間で人脈作りや情報収集を行うなどして進められた。そのような中の同年六月一四日ころ、幸福の科学の機関誌である月刊「幸福の科学」六月号に「ミラクル献金三〇〇〇億円構想」という記事が掲載された。訴外秋元は、三〇〇〇億円という途方もない金額の献金を唱える右構想から現代の新宗教の実体とその特徴・傾向等を浮き彫りにしていくことができるのではないかと考え、そのような内容の特集記事を同年六月一七日の企画会議で提案し、その結果三〇〇〇億円献金を通じて原告教団の実態をリポート風にまとめるという内容の特集記事の掲載が承認された。訴外秋元らは、さらに原告の会員を娘に持つ母親や正会員等を取材した上で、週刊現代平成三年七月六日号に幸福の科学のミラクル献金三〇〇〇億円構想についての特集記事を掲載した(なお、同記事については、当庁平成三年(ワ)第一三一二四号損害賠償等請求事件として係争中である。)。

3  平成三年七月六日号の取材中、さらに編集部に、原告は五万人の会員を後楽園の東京ドームに集めて同年七月一五日に原告代表者大川隆法の生誕祭を挙行するという情報が入った。その後、原告は、テレビ・新聞はもちろん飛行船やタクシーのステッカー等を利用して「御生誕祭」の宣伝を始めたため、原告がそのような一大イベントを挙行するということは広く世間に知られ、注目を集めるようになっていた。そのような社会的背景の下、編集部では、担当デスクの下に、平成三年七月六日の特集記事を担当した訴外秋元と三人の記者、及び原告を別の角度から取材していた編集者二名と遊軍記者を加えた者からなる取材チームが編成され、さらに原告に対する取材を続けていくことが決定された。

4  訴外秋元らの取材の過程で、原告がミラクル献金三〇〇〇億円構想により積極的な集金活動を行なうようになってから、原告内部では初期のころののんびりした雰囲気がなくなったとして、そのことを不満に思う会員が多くなっていること、原告の急激な躍進の中で、更なる拡大を図る幹部と、その指示を受けて献金集めや会員獲得に躍起になっている会員との間に軋轢が生じてきていることが明らかになってきた。また原告に対して不満を抱きだした会員・元会員等が積極的に訴外秋元らの取材に応じたことからも、取材チームとしては具体的で説得力のある談話や、内部資料等を入手することができた。そこで、訴外秋元ら取材チームはその取材結果をデスクに報告した上で、編集長・編集次長とも相談し、ちょうど七月一五日の「御生誕祭」が迫っていることもあり、「御生誕祭」の様子をリポートしながら、従来の新興宗教とは一線を画しているかのように見られた原告においても、実は同様の構図が見られるのではないかという問題意識を記事として掲載することが決定された。

5  そして、それまでの取材の結果等に基づき、訴外秋元が中心となって本件記事を執筆し、被告森岩弘が編集人となって平成三年七月二二日発行の「週刊現代」平成三年八月三日号に本件記事を掲載した。

なお、被告らは本件記事を掲載するに当たり原告に対して裏取り取材をしなかったが、それは、被告らが前記のとおり「週刊現代」平成三年七月六日号に「ミラクル献金三〇〇〇億円構想」なる記事を掲載したところ、原告は被告会社に対して平成三年六月二九日付けで右記事についての抗議文と正誤表なる書面(乙第三一号証の一、二)を送付し正誤表についての回答が今後の取材の条件であるかのような申入れを行ってきたので、被告会社はその回答を原告に送付したが、原告はその後被告会社の取材申込みに対して一貫して「週刊現代の取材は受けられない」等としてこれに応じなかったためである。

6  被告会社は、その後も「週刊現代」のほか月刊「現代」及び「フライデー」等により原告を取り上げる記事等を掲載したため、これに抗議する原告の会員多数が平成三年九月二日から六日ころにかけて被告会社本社で座り込みをする等の行動をとり、これに対し被告会社等が威力業務妨害罪等で東京地方検察庁に告訴したが、同検察庁は平成六年一二月一五日付けで不起訴処分にした。

三  本件記事による原告の名誉毀損の有無

1  本件第一ないし第三記事部分について

(一)  本件記事及びその一部である本件第一ないし第三記事部分の各内容は、前記一2認定のとおりである。これらによれば、本件第一記事部分では、原告のある支部長の談話という形式をとって、「御生誕祭」開催に際して60億円もの費用がかかること、右費用は原告の各支部で負担することになり、その支部では1億7000万円を負担することになったという各事実を摘示し、次いで本件第二記事部分では、その費用の捻出のために「『幸福の科学』は、教祖の『御生誕祭』開催に際し、会員にチケット販売と寄付のノルマを課していたのだ。」と指摘し、続けて寄付を強要された上級会員の話に加え、更に本件第三記事部分において、ある会員の母親の談話という形式をとって、原告の幹部が談話者の息子に対し下宿しているアパートを引き払って家賃分を寄付するように指示したという事実を記載することによって、ノルマを課されていたという事実にリアリティを持たせる構成になっていることが認められる。

これらの記事を通読すれば、本件第一ないし第三記事部分は、原告代表者大川隆法の「御生誕祭」開催に際して多額の資金を必要とした原告が、会員に対してやや過酷なチケット販売と寄付のノルマを課していた事実を摘示しているものであることが認められる。そして原告は、会員の信仰心を存立基盤とする宗教団体であり、会員による寄付も任意のものであるという建前をとるものであるから、右各記事部分は原告の社会的信用を一部低下させるものであると解される。

(二)  そこで、進んで被告の抗弁について判断する。

(1)  本件記事は、前記二で説示したとおり、マスコミを利用した大規模な宣伝活動を展開しこれまでの新興宗教にない新鮮・清潔なイメージで会員数を著しく増加させ社会一般の関心事となっていた原告について、その運営の実情や問題点等を指摘する記事中における記述であるから、本件第一ないし第三記事部分に摘示された事実は公共の利害に関する事実であると認められる。また本件記事は、その記事内容に照らせば、当時会員数を著しく増加させ、行動力・組織力を強めていた宗教法人である原告について、その実体等に対する高度の関心ないしその驚異的な発展に対する監視・批判という社会的要請に応えて掲載されたものであるから、公益目的があると認めることができる。

(2) 本件第一記事部分についての真実性又は相当性

前記二掲記の乙号各証、証人秋元直樹の証言、弁論の全趣旨を総合すれば、本件第一記事部分は、ミラクル献金と称した原告の組織的な会員集め・献金集めに対して不信感を抱き訴外秋元らの取材に継続的に応じていた都内某支部の中級会員が、平成三年七月上旬に直接に週刊現代編集部の記者に対して語った内容を中心に記事にしたものであること、同会員は、自ら直接体験したこととして右記者に対し、同人所属の支部の支部長が、「御生誕祭」の前に「今度の御生誕祭には総費用が六〇億円かかります。それを各支部で負担することになり、この支部では一億七〇〇〇万円集めることに決定しました」等と会員らに向かって話し、献金活動を積極的に行うよう指示したこと、そのため「御生誕祭」直前の支部集会は本来の大川隆法の著作を読んで神理を探求するというような学習会とは様相を異にし、その支部の中で多くチケットを売った人・多額の献金をした人の名前を発表して皆で拍手をしたり、少ない人に対しては激励するといった不愉快なものであったという話をしたこと、週刊現代編集部には既に「会員一〇〇万人達成のためには、関東地区で約五〇拠点の展開が必要であり(二五億円)、全国広告の展開には五〇億円の投資が必要となります」等と記載された内部文書(乙第一〇号証)があったこと、別の記者から、七月七日の大川隆法の誕生日までに一〇〇億円が必要だという内部文書を見せられたとの報告が多数寄せられていたこと、以上の事実を認めることができる。

右認定事実によれば、前記「御生誕祭」に際して六〇億円の費用がかかり、その費用は各支部の負担となった等の本件第一記事部分に摘示された事実について、厳密な意味における真実性の証明があったといえるかはともかく、前記二で認定した、原告による「ミラクル献金三〇〇〇億円」構想の発表とそれに基づく献金活動の推進、「御生誕祭」のテレビ等を用いた大々的な宣伝活動の行われていた当時の社会的背景等を考慮すると、少なくとも被告らにおいて本件第一記事部分がその大筋において真実であることを信じるにつき相当な理由があったと認めるのが相当である。

(3) 本件第二記事部分についての真実性又は相当性

前記(2)掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件第二記事部分は、「週刊現代」の記者らの取材に対して継続的に応じていた原告の会員らが、自らの直接体験した事実として、直接右記者らに語った内容を記事にしたものであること、また、右各会員の談話以外にも、複数の取材先から原告の会員が教団幹部から多額の寄付や多量のチケットの購入を要求されるといった本件記事部分と趣旨を同じくする報告が寄せられていたこと、以上の事実を認めることができる。

右認定事実によれば、原告が「御生誕祭」に際してその会員に対してチケットの販売や寄付のノルマを課していた等の本件第二記事部分に摘示された事実について、厳密な意味における真実性の証明があったといえるかはともかく、前記(2)で述べた当時の社会的背景等を考慮すると、少なくとも被告らにおいて本件第二記事部分がその大筋において真実であることを信じるにつき相当な理由があったと認めるのが相当である。

(4) 本件第三記事部分についての真実性又は相当性

前記(2)掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件第三記事部分は、「週刊現代」の記者らの取材に対して継続的に応じていた原告の会員である若いサラリーマンの母親が、直接週刊現代の記者に対して語った内容を記事にしたものであること、その母親は、自ら直接体験した事実として、息子が大学を卒業して就職した後、幸福の科学に入会して活動していたが、ある日突然戻って来て今までの家賃分を幸福の科学に寄付しなければいけない、植福しなければいけないなどと話し出したことから、果たして息子は仕事をちゃんとやっているのだろうかと大変心配している等という話をしたこと、以上の事実を認めることができる。

右認定事実によれば、原告幹部が「御生誕祭」に際して会員に対し住んでいる下宿を引き払ってまで寄付をするように要請していた等の本件第三記事部分に摘示された事実について、厳密な意味における真実性の証明があったといえるかはともかく、前記(2)で述べたような当時の社会的背景等を考慮すると、被告らにおいて本件第三記事部分がその大筋において真実であることを信じるにつき相当な理由があったと認めるのが相当である。

(5) そうすると、本件第一ないし第三記事部分の掲載については名誉毀損の違法性を欠くことになる。

2  本件第四記事部分について

(一) 本件記事及びその一部である本件第四記事部分の各内容は、前記一2認定のとおりである。これらによれば、本件第四記事部分では、元公明党都議藤原行正の口を借りて「大川氏の『幸福の科学』のやり方は創価学会の引き写しに過ぎない」という評価を加えた上で、原告の「御生誕祭」についても、「カネ集めの名目ですよ」等という同人の評価を記載することによって、原告と創価学会との資金集めの方法の近似性及び「御生誕祭」も金集めの手段であったという見方について読者をして説得的に了知させる構成となっていることが認められる。そして原告は、前記1でも述べたように、会員の信仰心を存立基盤とするものであり、会員による寄付も任意のものであるという建前をとるものであるから、右記事部分は原告の社会的信用を一部低下させるものであると解される。

(二)  そこで、進んで被告の抗弁について判断する。

(1) 本件第四記事部分も公共の利害に関するものであり、被告会社が公益目的で同部分を「週刊現代」に掲載したものであることは、前記1(二)(1)と同様である。

(2) 本件第四記事部分の真実性又は相当性

前記1(二)(2)掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、「週刊現代」の記者らの取材に対し元公明党都議の藤原行正が本件第四記事部分に掲げられたとおりの意見を表明していたことが認められる。そして、このうち原告と創価学会との近似性という評価については、本件第一ないし第三記事部分で説示したように原告が「御生誕祭」に際し会員にチケットの販売や寄付のノルマを課していたと信じるについて相当の理由があったこと、及び右意見を表明した藤原行正は元公明党都議で創価学会等に関して一般的に詳しい知識を持っていたことが認められるから、その評価推論については相当の理由があったと認められる。

また、前記「御生誕祭」がカネ集めの名目であったとの部分も、本件第一ないし第三記事部分について一つの評価を加えたものであり、前記のとおり右各記事部分の事実が存在すると信じるにつき相当の理由があった以上、評価推論として不当ということはできない。

(3) そうすると、本件第四記事部分の掲載についても名誉毀損の違法性を欠くということになる。

四  結論

以上によれば、その余について判断するまでもなく、名誉毀損を理由とする原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官中野哲弘 裁判官荒井九州雄 裁判官硲直子)

別紙<省略>

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